三割 | h

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私はベッドで寝ている。

夫は隣で寝ている。

もう朝だけど休みだから寝ている。

いつものように夫が先に起き寝室を出て行った。

なのに今も隣から夫の寝息が聞こえる。

眠い。目を開けたくない。

目を閉じたまま耳だけを研ぎ澄ませる。

やっぱり寝息が聞こえる。

夫の肉体はここにないのに

夫の何かがここに残ってる。

ちょっとまずい状況なのでは。

幽体離脱もあまり長くやるといけんって言う。

体に戻れなくなって死んじゃうって。

夫の場合も早く元に戻さないと危ないのでは。

 

しかし眠い。動きたくない。

体を動かさず目も開けず、

寝たままの状態で大声を上げて夫を呼んだ。

暫くしてやって来た夫に言う。

「存在の三割がベッドに残ってる。」

ここに三割残ってるから今の夫は七割の夫。

三割のところに体を重ねた方がいい。

合体して早く十割に戻った方がいい。

 

夫は説得に応じない。真面目にとらえてないんだ。

またすぐに寝室を出て行ってしまった。

…あれ?寝息が聞こえないぞ?いつからだ?

ここで初めて目を開ける。隣を見る。

空っぽの布団。寝息はやはり聞こえない。

三割、どこ行ったんだろ。

さっき夫が連れていったのかな。

上手いこと元に戻ったのかな。